続 泊りでへんろ 室戸岬へ Go ! その2

いよいよ修行の道場とよばれる土佐の国、高知県へ入り、四国右下の V字に切れ込んだ室戸岬を目指す。今日は牟岐駅から自転車へんろをスタートし、八坂八浜という白砂青松の入り江と緑豊かな岬が交互に交錯する風光明媚な絶景を官能してきた。

野根川を過ぎると、平地は無くなり、切り立った山の斜面はすぐ海へと落ち込む。はるか向こうに見える先端が室戸岬だろうか。近いような遠いような、そんな感じ。

山と海と空しか見えない道を延々と歩いていく、歩きお遍路さんは本当に大変だ。

自転車といえば多少のアップダウンがあるものの、快適な海沿い絶景ロードが続く。

空と海。そして岩。

振り返っても空と海。そして岩。

空と海と岩を見ながら、すれ違い追い越される車やバイクを見ながら、たまに追い越す歩きお遍路を見ながら、シャカシャカと自転車を漕ぐ。色んな事を考えながらシャカシャカと自転車を漕ぐ。家族や友人のこと。仕事のこと。遊びのこと。遍路のこと。そして煩悩のこと。割合でいくと煩悩が9割、お遍路失格なのだ。

岩はゴロゴロとしたものと、ミルフィーユのような層になったものとがある。

ミルフィーユのような岩は、タービダイト層という乱泥流堆積物。砂や泥が海水と混ざった流れによって海底に降り積もり、長い年月によりシマシマの地層になった。水平に堆積したものが、地震で回転して立ち上がったので、縦向きの縞模様になっている。

入木川を渡ると少しだけ平地があるが集落は山沿いにあるのだな。

佐喜浜川に架かる佐喜浜川橋は現在通行禁止。なので国道の新佐喜浜川橋を通り、再び旧道へと戻る。すると現れたのは。「ス フェニックス」。さっき唐揚げを食った「スーパーフェニックス」の姉妹店だろか。ここで弁当とお茶を調達。ここにもパートっぽいイイ感じの若奥さんがレジを打っていた。高知県は女子のレベルが高い。

佐喜浜の漁港。すでに水揚げされたのか漁港に人影はない。

都呂という地区は海と山のわずかな隙間に家が並んでいる。山は切り立っているので地震で津波ともなると逃げ場が無い。なので津波シェルターが造られている。

都呂の女子会。

「ス フェニックス」で買った弁当を、空と海をめでながら食う。おかずの品目が多く、かなりなボリュームのある美味い弁当だった。腹いっぱいになりすぎて、この後の自転車がチト心配。

遠くに岩が並んでいる。

近づくと巨大な岩にしめ縄。夫婦岩という。

すぐ間際まで遊歩道が整備されていて、かなりな迫力に圧倒される。覗き込むと絶壁の下に波が荒くれている。

むろと廃校水族館。廃校になった椎名小学校を改修した水族館。25mプールを利用した屋外大水槽にはカメやサメがゆったりと泳ぎ、ブリやサバも一緒に泳いでいる。校舎内に設置した水槽には熱帯魚や深海魚、カメなんかが泳いでいる。らしい。らしいと言ったのは入場料600円というのを見て、入るのをやめたため。でも、旅行者は地元にお金を落とさなければいけないよな、と後で後悔する。

通りには縄が張られ、椎名八王子宮のお祭りが近いのか。

あれが室戸岬か? そうなのか? もうすぐなのか? そして山の上に見える建物が最御崎寺なのか? このあとあんな急斜面を登らないといけないのか? だれか教えて欲しい~! が、人がいないのだ。

室戸世界ジオパークセンター。ジオパークとは、「地球・大地(ジオ:Geo)」と「公園(パーク:Park)」とを組み合わせた言葉で、「大地の公園」を意味し、地球(ジオ)を学び、丸ごと楽しむことができる場所のこと。ここ室戸はユネスコが認定した世界ジオパーク。

赤と青の3Dメガネを掛けると、地形が立体に見える。室戸の東側の海底は急角度で落ちる断層崖になっている。一方、西側は海成段丘と遠浅の海底になっている。

来影寺に建つ室戸青年大師像。巨大な若かりし空海さん。ちょっと眼光鋭く顔つきがコワモテではある。

海岸線はジオパークの遊歩道になっていて、ビシャゴ岩やエボシ岩といった奇岩なんかを見ながら散策できる。ここは弘法大師が行水なさった場所らしい。

そして御蔵洞神明窟御厨人窟。約1200年前の平安時代、青年時代の大師が悟りを開いたといわれる洞窟で、内には五所神社と呼ばれる社がある。 “空海”と名前をつけたのも、ここから見える空と海に感銘を受けたからと言われている。 この横に主に御修行の場として使われていたと伝えられる「神明窟」がある。

太平洋の白い波涛が吠えたてる室戸岬の突端にある、黒潮のしぶきにあらわれて鋭角になった黒い岩礁。そのすさまじい響き、空と海が一体となり襲いかかる洞窟の樹下で、藤衣を被って風雨を凌ぎ、虚空蔵求聞持法の修法に励む青年・空海がいた。延暦11年(792)、弘法大師19歳のころとされている。この詳細は、大師が24歳のときの撰述『三教指帰』に次のように記されている。 「…土州室戸崎に勤念す 谷響きを惜しまず 明星来影す 心に感ずるときは明星口に入り 虚空蔵光明照らし来たりて 菩薩の威を顕し 仏法の無二を現す…」大同2年、唐から帰朝した翌年に大師は、勅命を受けて再び室戸岬を訪ねている。

風化による落石で、御厨人窟・神明窟ともに立入禁止になっている。

現在の御厨人窟の前から見た景色はこんな感じ。空海が見た時の景色よりも隆起により地面が上がっているそうだ。当然、当時は広場も道路も無く目の前はすぐに海。海はもっと近かった。

ジオパークには、御厨人窟の内部から空海が見た景色を模型で再現されていた。

さぁいよいよ最終カーブを曲がると室戸岬に到着! 岬の先端には中岡慎太郎先生が太平洋を見つめている。牟岐駅から62kmの海沿いサイクリングは一旦終了。

中岡慎太郎先生は土佐出身の志士で倒幕活動をした幕末の英雄。土佐勤皇党に加入し活動するも、土佐藩を脱藩し長州藩へ亡命する。坂本龍馬ともども桂小五郎と西郷隆盛を説得し薩長同盟の締結に尽力した。その後、坂本龍馬の海援隊に対し、陸援隊の隊長となり土佐藩のため尽力する。京都四条の近江屋で坂本龍馬ともども何者かに襲撃され、その2日後亡くなる。享年30歳だったとは若いのにすごいお人だ。

中岡慎太郎先生の背後には室戸灯台が建つ。

乱礁遊歩道を進むと、灌頂ヶ浜というまさに室戸岬の先っぽに出る。

観光案内所にある展望台に登ってみると、太平洋が225度くらい見渡せるゼヨ。

さて、観光はここまで。お遍路さんなので最御崎寺を目指して室戸まで来たのだった。最御崎寺へのルートは二択。岬の西側から登る室戸スカイライン(黄色)と、東側から登るへんろ道(赤色)。標高差160mだけど遍路道は斜度がかなりきつそうだ。急斜面を登るのは、どちらも大変そうだな。

室戸岬を通り過ぎ、室戸スカイラインを見に行ってみる。なんちゅう登り坂! ウザ過ぎる~! やめやめ、こちらは帰りに下ってこよう。

という事で、一旦来た道を戻る。スカイライン入口から岬を通りへんろ道の入口へ向かう。看板見ると、なんだ徒歩で20分か、楽勝だな! スカイラインをやめてよかった。などと安易に坂道を進み出したときに「自転車通行不可」という文字が横目に映った。いやな予感。

 

入口のすぐ上には忠霊塔があり、その脇の狭い草むらを分け入っていく。

げげげ~階段かよっ! 徒歩なら階段の方が断然登りやすいが、自転車だと乗って進むことは不可能だ。だからといってまたスカイライン入口へ行くのもメンドクサイ。

自転車押し上げ、捻岩(ねじりいわ)。弘法大師が念仏を唱えて祈念し、異変をおさめたと伝えられる。

クネクネと九十九折りの階段へんろ道は続く。階段の段の無い端っこにタイヤを這わせるようにして自転車を押し上げていく。が、途中何度も段に引っかかり、そのたびごとに自転車をグイグイっと引っ張り上げなければならない。腕もダルダルになってくる。

息が乱れ心臓はバクバク、汗がしたたり、自転車捨てたくなってくる。ここまで登ってしまったら、もう戻るに戻れない。

やがて石畳となった。階段よりは押し上げやすいが急坂なので非常にしんどい。

休憩所のような東屋が突如現れる。が、イスが無いので休憩所の意味をなさない。そして周りに木々が茂り展望もよくない。何のために造ったんだこれは。

再び階段。今度の階段は横にスペースがあるので押し上げやすい。が、自転車を押す腕がパンパンになってきた。脇を締めて肘をわき腹に宛がって上腕二頭筋が疲れないようにしてみたり。いっそのこと自転車を担いで登ってみたり。

おぉ、何か見えてきた。

第二十四番札所 室戸山 明星院 最御崎寺

大同2年、唐から帰朝した翌年に大師は勅命を受けて再び室戸岬を訪ねている。虚空蔵求聞持法を成就したこの地に、本尊とする虚空蔵菩薩像を彫造して本堂を建立した。嵯峨天皇をはじめ歴代天皇の尊信が厚く、また、足利幕府の時代には土佐の安国寺となり、戦国・江戸時代には武将、藩主などの寄進により、寺運は隆盛した。当時は、真言密教の道場とされ女人禁制の寺であった。往時、女性の遍路は遙か室戸岬の先端から拝んだといわれるが、明治5年に解禁されている。

室戸岬では東西に対峙している二十六番・金剛頂寺が「西寺」と呼ばれ、最御崎寺は「東寺」とも呼ばれており、納経帳等の寺名には東寺と記されている。南国情緒を味わう室戸阿南国定公園の中心にあり、大師が悟りの起源の地でもある。

なんとなく達成感に満ちて最御崎寺に到着。しかし息も絶え絶え、山門を自転車ごとくぐり境内に入る。

息はゼーゼー、心臓バクバク、汗でビッショリ、さすがにお参りの前にちょいと休憩が必要だ。ベンチに腰掛けて汗を拭っていると、元気なオバちゃんに声を掛けられる。「ここまであの急坂を自転車で登ってきたの~すごいねぇ。」、「車道じゃなくて、へんろ道を自転車押して上がってきたんだ。」「えぇ~なんで~?」「どうせ同じ高さまで上がるのならスカイラインよりもへんろ道かな~と軽い気持ちでね。」「はははっ!物好きねぇ~」「ほんまやねぇ~途中で自転車捨てたなったわ。」などと軽い会話をしている間にHPが回復してきた。

鐘石という空海の七不思議。班れい岩で、小石で叩くとキーンという高い金属音を発し、この響きは冥土にまで届くらしい。

御影堂。

鐘楼堂。慶安元年(1648年)九月の建立。

多宝塔。

本堂。

ご朱印をいただき、室戸山 明星院 最御崎寺をゲット。