第十九番 立江寺を出発。いよいよラスボス級の鶴林寺に向かう。午前中といえど真夏の太陽は容赦なく体の水分と体力を奪っていく。こんな時期に自転車なんかに乗るもんじゃない。おまけに今日の服装はTシャツに短パン、Tシャツの上に遍路らしく白シャツを着ている。足元は草履。すでに服は上下とも海にでも飛び込んだかのような、ずぶ濡れ具合だ。
道端にはチビひまわりが咲き乱れ、真夏の太陽は容赦なく照りつける。
櫛渕地区はみどりが眩しい。が、暑い。
ザ・田舎。田舎の風景は心が休まる。が、暑い。
ここまでは大した坂道も無く、暑さだけが重くのしかかる。尋常じゃない汗。標識によると鶴林寺まで11km、その次の太龍寺までは10km。近い順に進むか番号順に進むか、いやいや番号順に進まないと余計に距離が長くなる。
勝浦町に入る。暑さのせいでTシャツがしぼれるほど汗だく。日焼け止めを早く塗り直したい。
立江の雑貨屋のおばちゃんが言っていた出来立てホヤホヤのローソン発見。日焼け止めと、今日の昼メシ「きざみから揚げ丼」、ポカリスウェット2本を調達。街のホットステーションはエアコンばりばり快適空間。イートインコーナーでしばし休憩。
ふたたび灼熱の道中。コスモスが咲いている。でもコスモスは秋じゃなかったか?こんな真夏に咲くんだな。夏咲秋桜。
勝浦川沿いに進み、生比奈を行く。道の駅「ひなの里かつうら」の看板が出る。道の駅好きとしては寄り道したいが、なんだかしんどくてパスする。こまめに水分補給していたつもりだが脱水症状気味かも。
車は真っ直ぐ5.2km、歩き遍路は左3.1km。自転車遍路としては距離の短い左を衝動的に選ぶ。
ここのひまわりはこれから。
歩きへんろ道は自転車では通れないらしい。左が車道で右が歩きへんろ道。
軽トラに乗ったおっちゃんが「自転車は車道を行きや!」と教えてくれる。歩きへんろ道には階段がけっこうあるしい。「自転車を担いでも無理かな?」と聞くと、たまに担いで行く自転車もいるとの事。「今日は暑いし車道をお行き!」と説得される。ちょっとだけ見に行ってくるわと、歩きへんろ道を進んでみる。
歩きへんろ道を進んでみる。舗装されているが、しょっぱなから、なかなかな坂道ぐあい。
右の急坂がへんろ道。森に入って行く。
かなりな急坂。しばらく進むが全編押し歩きとなりそうなので、歩きへんろ道はやめて車道を行くことにする。
歩きへんろ道をUターンし、麓から車道を進んでいくが、車道もそうとうな急坂ぐあい。汗だくで立ち漕ぎするが、足がつりかけ根性無くなり途中で歩きに変えた。自転車を押して歩いたほうが楽かというとそうでもない。額から汗が滝のように流れ落ち、腕からもしたたり落ちる。Tシャツ短パンはびしょ濡れ状態。そして草履をはいて来た事を後悔する。
漕いだり押したりと麓から15分ほどのところで後ろから何かが落ちた音がした。止まり振り向くと、荷台にはさんであったポカリスウェットが2本坂道を転がり落ちていく。下り坂を追いかける気力も無く呆然と見ていると道路脇の崖下に消えて行った。なんてこったパンナコッタ、オーマイゴーなのだ。手元にある水分はボトルホルダーの2口分ほど残ったお茶しかない。このまま無給水で鶴林寺に辿り着けるのか。地図を見るとまだ麓から五分の一くらいしか登っていないようだし、この先は益々急斜面になってくるようだ。すでに脱水状態の症状が伺えるがとりあえず進むことにする。
さらに40分ほど汗だくで登った頃、頭痛がひどくなり軽くめまいもしてきた。これはやばい。脱水症か熱中症か。木陰で休憩しても暑いし飲み物が何も無いのでとてもつらい。10分ほど転がっていたが汗も止まらない。なむなし飲み物を調達のため麓に戻ることにした。
1時間ほどかけて登ってきた急坂を、ほんの5分ほどで下って行く。風がものすごく気持ちいい。
麓で調達したアクエリアスをがぶ飲みするが、イマイチ気持ち悪いのが治らない。もう一度、鶴林寺に向かって坂道を登る気力は無く、最悪の事態になりそうな予感がしたので、今日はもう帰ることにした。
立江に戻ろうと進みながら今日のリタイヤはポカリスウェットが無くなったからだと言い訳を心の中で叫ぶ。じゃっかん気分はマシになってきた。このまま帰るのもシャクだし、19番立江寺の奥の院である取星寺に寄ろうと思う。途中で那賀川沿いに進路を変え、羽ノ浦方面に進んで行く。
取星寺は標高55mほどの山の上にある。登山道を立ち漕ぎで登っていく。再び汗がしたたり落ちる。
途中にあるしあわせの丘。
しあわせの丘からさらに登る。真夏にアジサイ、梅雨時のイメージ。
展望台になっている。見晴らしはいい。
第十九番 立江寺奥の院 取星寺
三宝大荒神王、明現神社を通り抜け、妙見山取星寺に到着。
奥の本堂でお参りするが、境内には誰もいない。
レターケースに入っている半紙に書かれたご朱印を頂く。すでに600円が入っているレターケースの引き出しに300円入れておく。
鶴林寺で食べようと思っていた、ローソンきざみから揚げ丼を食べる。足元から黒いでかいアリが容赦なく這い登ってくる。
JR羽ノ浦駅から輪行で府中駅まで戻る。羽ノ浦駅は昔懐かしい線路の匂いがする。匂いの正体は木製の枕木の防腐剤、クレオソート油。幼い頃の記憶がよみがえる。匂いには思い出を思い出させる力がある。
1両編成の1500形気動車。車内はほぼ満席。
徳島駅で牟岐線から徳島線へ乗り換え。こちらも1両編成の1000形気動車。
府中駅から井戸寺に戻り、途中リタイヤの報告をする。車に戻ると暑さでダッシュボードのモニターが剥がれて倒れ、車の外気温計は38度を示していた。
はたしていつ結願できるのやら。