それは前触れも無く、ある日突然、四国八十八ヶ寺のお遍路に出掛けたくなった。
四国で生まれ四国で育つ。そして四国を離れ進学就職。今では関西での生活が四国時代よりも長くなってしまった。
四国松山は遥か昔十五万石の城下町。松山のいわゆる下町で育ち、幼き頃の遊び場といえば、路地裏や空き地、田んぼや畑、河原、神社、お寺であった。近所の駄菓子屋でお菓子を買いドロケイやロクムシ、缶けりで明け暮れていた。
自転車に乗り四国八十八箇寺のお寺にも近所の仲間たちと遊びに行った。そこは静かな雰囲気のお寺だった。時には母親と車掌さんがいるバスに乗りお寺にお参りしていた事を憶えている。今思うと水子供養だったのか。そこはにぎやかなお寺だった。いつも屋台がでていて参拝客にあふれていた。鐘をつき、洞窟に入り、名物の焼もちを買ってもらって食べるのが楽しみだった。そのお寺も四国八十八箇寺のお寺であった。習い事の合宿では山あいのお寺の宿坊に泊まり練習に明け暮れた。早朝にお経を唱え一日が始まった。そのお寺も四国八十八箇寺のお寺であった。
日常的に道行く白衣菅笠姿のお遍路さんの姿は、自分の生活の中の一部として溶け込んでいたように思い出す。なんだか懐かしい。哀愁というやつなのか。
ある日突然、お遍路に出掛けたくなった。
最近はなんでもかんでもインターネットで調べられる便利な時代である。ひと昔前、家にパソコンやスマホ、タブレットが無かったころはどうやって調べていたっけ。本屋か図書館か。そういえば家の本棚には本や雑誌、ガイドブックなどたくさんある。昔は本をよく買っていたな、などと思いながらネットで四国八十八箇寺をググる。
皆さんご丁寧に山ほど書き込みがある。歩きはもちろん、車、バス、バイク、自転車などなどお遍路ブログが山ほどヒットする。近所の図書館にも出掛けた。地理コーナー、歴史コーナーを回り、旅行記のコーナーで歩き遍路の旅行記を借りてきた。日常からかけ離れた生活はとても魅力的に感じた。本屋にも出掛けた。梅田の紀伊国屋書店にはそれらしきコーナーがある。ここで歩き遍路の本を数冊購入。数日読みふけった。
はたして自分にはお遍路できるのか?
自分に当てはまるものを考えてみる。
神社仏閣は好きか?
新しい物好きではあるが、古いものも好きだ。世界遺産や城跡、神社仏閣、古い町並み、レトロ商店街、古民家など、当時の文化や人々暮らしを感じ歴史を学ぶ事は楽しい。写真は伏見稲荷神社。
歩くのは好きか?
ウォーキングもランニングも好きだ。奥さんとウォーキングし、年に数回仲間とマラソン大会にも出ている。トレッキングで頂上でしか手に入らない登頂バッチを集めている。写真は大山からの眺望。
車での旅は好きか?
車も好きだ。海へダイビング、山へスキー、みんなでキャンプへと長距離運転は苦にならない。写真は4家族でのキャンプ
鉄道での旅は好きか?
鉄道も好きだ。毎シーズン青春18きっぷの旅にでる。ローカル線を乗り継ぎ遠くへ行きたい。ブルートレインの無くなる日には涙した。写真は寝台特急日本海ラストラン1週間前。
バスでの旅は好きか?
バスも好きだ。東京や九州へは夜行バスを利用することもある。ブルートレインが無くなった今、夜行バスの旅情感がハンパなく、とてもわくわくする。写真は大阪東京夜行高速バス。
バイクでの旅は好きか?
バイクも好きだ。中免しかないが、いつかは限定解除したい。でも今はバイクが無い。写真は往年の名車カワサキZ400FX
自転車旅は好きか?
自転車も好きだ。ポタリングや旧街道を走るのが楽しくてしょうがない。写真は瀬戸内海大三島。
そもそも旅は好きか?
旅は大好きだ。これまでも国内海外いろいろ出かけた。安宿に泊まったり、野宿をしたりと楽しくてしょうがない。写真は予讃線。
好きなものを挙げていくと、お遍路の素質ありかもと思えてくる。
しかし、ほぼ無宗教といってよい。そこが問題だ。
お寺に行くのはせいぜい初詣か花見か観光か、はたまた困ったときの何とかくらい。歴史的観点や文化芸術的観点で訪れるお寺は良い。とても魅せられる。
四国の海岸沿いをグルッと一周、山登りも各所にあるが、標高1,955mの剣山や標高1,982mの石鎚山といった本気の登山を要求される訳ではない。しかし歩き遍路は手に負えそうに無い。1,400kmを歩くのは、つら過ぎるし何より時間が無い。車や鉄道、バスツアーだと旅行っぽくなるし、苦労感と達成感がいまいち味わえない気がする。お金もあまり掛けたくない。贅沢三昧の旅もいいが、お金を節約し効率的な方法を考えて極貧の旅をするのも好きだ。
やはり自転車だな。
四国も開発の波があちこち押し寄せているが、まだまだ昔ながらの遍路道があちこちに点在している。山道、砂利道、獣道。農家の庭先を通り、田んぼのあぜ道もあるらしい。
お寺だけではなく、四国には城跡が沢山ある。しかも、現存12天主の城が4箇所(高知城、宇和島城、松山城、丸亀城)もある。城好きには堪らない。写真は高知城。
そして何より四国には美味いものが多い。四国4県それぞれ文化が違い、それぞれ異なった美味いものが沢山ある。海の幸、山の幸、その土地土地で名物グルメを官能できそうだ。写真は高知の塩タタキ定食。
酒も美味い。ポン酒や焼酎の酒造蔵元が沢山ある。地酒好きにはたまらない。でも自転車だと飲酒運転になるので途中で飲むのは無理か。写真は高知の清酒酔鯨 純米吟醸酒。
自転車でお遍路に出掛けたい。
しかしながら動機はかなり不純な気がする。おまけに信仰心もほとんど無い。
だが出かけたい、今すぐ出かけたい、たまらなく出かけたい。でも時間が無い。